[光線追跡] (Ray Trace)


[光線追跡] (Ray Trace) コントロールを使用すると、定義済みの光源、オブジェクト、ディテクタの下で解析を目的として光線を送出して追跡できます。このダイアログにある各種コントロールについて以下で説明します。

[ディテクタのクリア] (Clear Detectors) [全て] (All) を選択するか、クリアする具体的なディテクタを 1 つ選択します。この機能では、ディテクタのすべてのピクセルをエネルギーがゼロの状態にリセットします。
[クリアして追跡] (Clear & Trace) 選択したディテクタをクリアして光線の追跡を開始します。詳細については、[ディテクタのクリア] (Clear Detectors) と [光線追跡の実行] (Trace) の設定を参照してください。
[光線追跡の実行] (Trace) 定義したすべての光源から光線追跡を開始します。追跡を開始すると、[中断] (Terminate) と [自動更新] (Auto Update) のみが使用可能になります。光線追跡の開始に伴う他の効果については以下の説明を参照してください。
[自動更新] (Auto Update) チェックすると、すべてのディテクタが定期的に再描画されるので、光線追跡の進捗を監視できます。
[# CPU's] (# CPU's) 光線追跡のタスクの分散先とする CPU の数を選択します。CPU が 1 つのみのコンピュータでも、複数の CPU を指定できます。この場合、1 つの CPU 上で複数のタスクが時分割処理によって実行されます。デフォルトの設定は、オペレーティング システムで検出されたプロセッサ数です。CPU が多いほど演算速度は速くなりますが、そのために必要なメモリ量は著しく多くなります。メモリ不足のエラーが報告される場合やハード ディスクがメモリ キャッシュとして使用されるようになる場合は、使用する CPU の数を少なくしてみます。
[偏光を使用] (Use Polarization) チェックすると、光線のエネルギー、反射、透過、吸収、薄膜とコーティングによる効果の判断に偏光が使用されます。[光線の分割] (Split Rays) をチェックすると、正確な光線分割には偏光が必要なので [偏光を使用] (Use Polarization) にも自動的にチェックが付きます。
OpticStudio で偏光が使用される様子の詳細については、「[システム エクスプローラ] (System Explorer)」の「[偏光] (Polarization) (システム エクスプローラ)」を参照してください。
[NSC 光線の分割] (Split NSC Rays) チェックすると、「光線分割」の説明にあるように界面の特性に従って光線が分割されます。
[NSC 光線の散乱] (Scatter NSC Rays) チェックすると、界面の散乱特性に従って光線が散乱します。
[エラーを無視] (Ignore Errors) チェックすると、光線追跡で発生したエラーが無視され、どのようなエラーが発生しても光線追跡は中止されません。追跡対象の光学系に存在する重大な問題によってエラーが発生することもあるので、このオプションを有効にする場合は注意が必要です。一方、完成度が高い光学系でも、コンピュータの精度が有限であることや軽微な問題などにより、わずかな本数の光線で問題が発生することがあります。光線追跡の最後で示される損失エネルギー (エラー) が、定義した光源すべての合計パワーと比較して小さい場合は、わずかな光線でエラーが発生しても無視してかまいません。「エネルギー損失」を参照してください。
[光線を保存] (Save Rays) チェックすると、指定した名前のファイルに光線データが保存されます。このファイル名には適切な拡張子 (ZRD、DAT、SDF、または、TM25RAY) を指定しますが、フォルダ名は指定しません。以下の「[フィルタ] (Filter)」と「ファイルへの光線データの保存」も参照してください。
[光路データを保存] (Save Path Data) チェックすると、指定した名前の PAF ファイルに光線データが保存されます。PAF ファイルには同じ情報が含まれ、光線データの保存と読み込みが ZRD ファイルよりも高速です。現在のところ、[光路解析] (Path Analysis) でのみ PAF ファイルを使用できます。生成された PAF は、光線追跡の間は [フィルタ] (Filter) オプションを無視します。
[フィルタ] (Filter) このオプションは [光線を保存] (Save Rays) をチェックした場合にのみ使用できます。ここでフィルタを定義しておくと、追跡した各光線ツリーにそのフィルタが適用されてからファイルに光線データが保存されます。フィルタ条件に適合した光線ツリーのみが保存されます。保存するデータのサイズが大幅に小さくなるので、得られるファイルのサイズも小さくなります。フィルタの構文の説明については「フィルタ文字列」を参照してください。
説明
モンテカルロ光線追跡の実行では、理解しておく必要がある重要な考慮事項がいくつかあります。ディテクタをクリアすると、各ピクセルのエネルギー カウントがすべてゼロにリセットされます。[光線追跡の実行] (Trace) ボタンをクリックすると、NSC エディタに記述した光源ごとに、指定した本数の解析光線が追跡されます。各光源には、ワットなどの単位でパワーが定義されています (「[解析の単位] (Analysis Unit)」を参照)。所定の光源を発する各光線の初期強度は、その光源の合計パワーを追跡対象の光線の本数で除算した値です。たとえば、パワーが 1 W の光源から 1,000,000 本の光線を追跡する場合、各光線には当初、1.0E-06 ワットが割り当てられます。
すべての光線の追跡が終了する前に光線追跡を中止すると、追跡した本数の光線については光線に配分されたエネルギーは正確ですが、ディテクタ オブジェクトに記録された合計パワーとピーク パワーは正確な値ではなくなります。光線追跡を一時停止してから再開することはできないので、光線追跡を中止した後で [光線追跡の実行] (Trace) を再度クリックすると新たな光線追跡が始まります。
ディテクタをクリアしてから [光線追跡の実行] (Trace) をクリックし、その光線追跡の完了後にもう一度 [光線追跡の実行] (Trace) をクリックすると、すべてのディテクタには両方の光線追跡による合計パワーが記録されます。ディテクタをクリアしてから次回のクリアまでの間に実行された光線追跡の回数を正確に知る方法は、OpticStudio に用意されていません。その間に光源の追加、削除、変更がいつでも発生する可能性があるからです。
パワーを正確に計算するには、追跡の前にディテクタをクリアし、光線追跡を 1 回のみ、途中で中止せずに完了する必要があります。
ファイルへの光線データの保存
[光線を保存] (Save Rays) オプションをチェックすると、追跡した光線データの一部またはすべてをファイルに保存できます。保存されるデータの特性は、指定したファイル名によって異なります。
ファイル拡張子が ZRD であれば、すべての光線データまたはフィルタを適用した光線データが保存されます。このファイルの保存先フォルダは、追跡対象のレンズ ファイルが保存されているフォルダです。OpticStudio では、光線データの基本的なビューアで ZRD 形式が使用されます (「[光線データベース ビューア] (Ray Database Viewer)」を参照)。ZRD 形式の詳細については「光線データベース (ZRD) ファイル」を参照してください。
拡張子が DAT、SDF、または、TM25RAY の場合は、特定のオブジェクトに到達した光線のみ、またはその光線にフィルタを適用した光線のみが光源ファイルに保存されます。この形式は光源 (ファイル) オブジェクトで使用します (「[光源 (ファイル)] (Source File)」を参照)。
この光源ファイル形式を使用するには、ファイル名を n-filename.DAT または n-filename.SDF の書式にする必要があります。n は目的のオブジェクト番号に相当する整数です。この場合、オブジェクト n に到達した光線を記述した filename.DAT、filename.SDF、または、filename.TM25RAY というファイル ("n-" の部分を除外したファイル名) が作成されます。
たとえば、11-ReferenceObject.DAT を指定すると、オブジェクト 11 に到達したすべての光線がファイル ReferenceObject.DAT に保存されます。このファイルは <objects>\Sources\Source Files フォルダに格納されます (「[フォルダの設定] (Folders)」を参照)。ファイル拡張子 DAT を使用すると、光線データは古い「光束のみ」の形式で保存され、波長データは失われます。
光線が、オブジェクトの複数の面に到達すると、面と交差する各セグメントによって光源ファイル内に個別の光線が生成されます。
これによってファイルのサイズが小さくなるので、単色の光源の場合にのみお勧めできます。ファイル拡張子 SDF を使用すると、光線データは新しい「特殊な色」の形式で保存され、各光線と共に波長データが保存されます。光源ファイルの形式の詳細については「バイナリ光源ファイルの形式」を参照してください。
ファイルにデータを書き込む処理は光線追跡よりも低速なので、光線データを保存するようにしていると、演算時間が大幅に遅くなります。このことから、光線追跡以降の解析でデータが必要な場合にのみ、光線を保存する機能を使用するようにします。
[光路データを保存] (Save Path Data) オプションをチェックしていると、光路のデータが PAF ファイルに保存されます。このファイル タイプは追加機能をサポートしておらず、光路情報 (光路あたりの光線 (ブランチ) の数、光線が到達するオブジェクトの順序、光路の光束など) を抽出するためのデータのサブセットのみを保存します。
エネルギー損失
追跡対象の NSC 光学系によっては、一部の光線を正常に追跡できないことがあります。光線追跡を中止した場合、その光線のエネルギーを「エネルギー損失」といいます。エネルギー損失は光源の単位で表現します (「[光源の単位] (Source Units)」を参照)。特定の光線の追跡が中止になる原因として次のようなものがあります。
- 追跡を継続するうえで最低限必要なエネルギーのしきい値を光線のエネルギーが下回ると、追跡が中止されます。
エネルギーの相対的最小しきい値と絶対的最小しきい値については「[ノンシーケンシャル] (Non-sequential) (システム エクスプローラ)」を参照してください。
光線追跡の制御では、しきい値設定によって失われたエネルギーとしてこのようなエネルギー損失が報告されます。
- ジオメトリ エラーや丸め誤差によって、光線追跡を継続できない条件が発生することがあります。普通は、ソリッドの形状形成が不十分な場合やオブジェクトのネストが不適切な場合にジオメトリ エラーとなります。光線によっては、交差データや屈折データを正しく計算できないことがあります。面での反復演算ができない場合やコーティング データを計算できない場合に、このような状況になることがあります。オブジェクトとの交差回数、ネスティングの階層数、またはセグメントの分割数の最大値に光線が達した場合も、エラー条件でその光線の追跡が中止になります。光線追跡の制御では、エラーによって失われたエネルギーとしてこのタイプのエネルギー損失が報告されます。
- 局所的な屈折や反射を正確に計算できない場合、オブジェクトのエッジに到達した光線の追跡が中止になることがあります。オブジェクトのエッジに光線が到達したと見なせるのは、その到達位置がエッジまでのしきい値距離の範囲にある場合、または複数のオブジェクトが同じ位置に重なって存在しており、光線の到達点でそれらのオブジェクトが持つ法線が互いに平行になっていない場合です。ほとんどのオブジェクトでは、貼り合わせ距離をレンズ ユニットで表した値が、ほぼこのしきい値距離になります。フェーセット オブジェクトでは、貼り合わせ距離 (ここでは無次元の値として解釈します) にそのフェーセットの次元数を乗算した値が、ほぼオブジェクトのエッジまでのしきい値距離になります。なお、パートのエッジにきわめて近い位置に到達する光線では、どのような場合でも物理的に有意な解釈が成立しません。実際のオブジェクトでは、エッジの数波長分の範囲に入射するすべてのエネルギーに回折または散乱が発生します。どのオブジェクトにも到達しない光線や、コーティング、バルク透過、ディテクタで吸収される光線も追跡が中止になります。OpticStudio では、このような光線が吸収されてもエラーにならず、報告もされません。光学系からのエネルギーの吸収または伝搬があったことがわかっており、そのエネルギーは考慮されているので、エネルギーの損失とは見なされないからです。
全エネルギーに対するエネルギー損失の比率が比較的小さければ、そのエネルギー損失は無視できます。設計が良好で正確な光学モデルでも、擬似的な光線エラーが発生することがあります。パートのエッジやパート間の継ぎ目に到達して吸収される光線のエネルギーは、光学系全体のエネルギーに対して占める比率が小さいことが普通です。エネルギー損失が無視できないほど大きい場合は、各種の設定 (「[最小相対光線強度] (Minimum Relative Ray Intensity)」の例を参照) やオブジェクトの幾何学的形状を確認する必要があります。形状エラーを検討する際の参考として、「[前回のジオメトリ エラーからの光源光線の作成] (Create Source Ray From Last Geometry Error Tool)」を参照してください。
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