グリッド サグ

グリッド サグ面は、基本平面、球面、コーニック、非球面、多項式非球面、またはゼルニケ非球面にサグ値の矩形配列で定義される追加サグ項を加えたものにより定義される形状を備えています。面の形状は、サグ値の線形補間またはバイキュービック スプライン補間のいずれかにより決定されます。サグは、以下の離散点で表すことができます。

ここで、

また、Zi 項は、「ゼルニケ標準サグ」で説明しているゼルニケ標準項です。項 delx および dely は、x 方向と y 方向のグリッド点間の間隔であり、xdec および ydec は任意のディセンタ座標、nx および ny は各方向におけるグリッド内の点の数です。nx 値と ny 値は、5 以上とします。Zbase を定義する項は、偶数次非球面で定義した項と同一です。グリッド点により定義されるサグは、基本の非球面形状により定義されるサグに関してディセンタされます。また、パラメータ 9 と 10 にはゼルニケ ディセンタ項があり、これらは、面の頂点に対してゼルニケ式のみを任意にディセンタするために使用されます。OpticStudio はこの面の近軸屈折力を計算する際に、頂点の曲率半径、非球面係数データ、およびグリッド データ点を使用して、有効な近軸曲率を計算します。

グリッド データのインポート

このデータはすべて、OpticStudio の外部で計算して表にし、適切なファイル形式に構成した後、[面のプロパティ] (Surface Properties) の [インポート] (Import) セクションを使用して読み込まれます。適切なファイル形式は以下のとおりです。

 
nx ny delx dely unitflag xdec ydec 
z dz/dx dz/dy d2z/dxdy nodata
.
.
.
 

ファイルの最初の行には、x 方向と y 方向の点の数 (整数)、x 方向と y 方向の増分 (浮動小数点。正の値を前提として、delx と dely の絶対値のみが考慮されます)、データの単位を示すフラグ (整数、mm では 0、cm では 1、インチでは 2、m では 3)、および基本面に対するグリッド点の x 方向と y 方向のディセンタ (浮動小数点) の 7 個の値が記述されています。現在のレンズ ユニットに必要なスケーリングが実施されます。サグ値と交差微分値には次元があるためスケールされますが、第一微分値は無次元であるためスケールされません。

ファイル内の残りの nx*ny 行は、4 個の (浮動小数点) 数と (任意の) 1 個の整数値をそれぞれ含みます。4 個の浮動小数点値はサグ、サグの x 微分、サグの y 微分、および交差微分 d/dxdy です。任意の 5 番目のデータ エントリは、データが無効であるかどうかを示す整数フラグです。有効な測定データは、nodata フラグにゼロまたは空白が入っています。データが有効ではない点の nodata には 1 の値が入っています。

nodata の値が 1 の場合、そのエントリ行の値のすべてが 0 に置き換えられ、計算にはサグの基板部分のみが使用されます。グリッド サグ テーブルにある数値以外のエントリも、すべて 0 に置き換えられます。

ファイル内の最初のデータ行は、面の左上隅、つまり -x と +y の限界値で定義される隅に対応します。これに続く各点は、面の表面の左から右へと読み込まれます。nx 個の点の後、nx+1 番目の点が行 2 の最初の値として読み込まれ、以降 nx*ny 個の点が読み込まれるまで同様の処理がなされます。ファイルは ASCII 形式とし、拡張子 .DAT で終わるものとします (NSC オブジェクトで使用されるファイルの場合、拡張子は .GRD とします)。

微分値は、データ点間のサグの滑らかなバイキュービック補間に必要です。微分値は、線形補間アルゴリズムでは使用されません。ファイル内の各点に関するすべての微分値 (dz/dx、dz/dy、d2z/dxdy) がゼロの場合、OpticStudio は有限差分法を使用して自動的に微分値を推定します。

グリッド サグ ファイル形式はコメント行にも対応します。「!」文字で始まる行は無視されます。

バイキュービック スプライン補間と線形補間

任意の点における面のサグは、2 つの補間アルゴリズムのうちのいずれかを使用して計算されます。バイキュービック スプライン アルゴリズムはデフォルトで使用され、サグとその 1 次導関数の両方で滑らかな補間を提供します。適度に滑らかなデータを得るには、バイキュービック スプライン アルゴリズムが適しています。ノイズの多い疑似ランダム状のデータや、はっきりした不連続性を含むグリッド データの場合、バイキュービック スプラインによって「オーバーシュート」が発生することがあります。これは、面データの補間によりグリッド点から離れたサグ点が生成される可能性があることを意味します。このような場合、線形補間アルゴリズムではより役立つ結果が提供されます。バイキュービック スプライン補間または線形補間のどちらを使用するかは、パラメータの 1 つとしてユーザーが選択できます。

グリッド サグ面を使用するための提案

スプラインの制限に関する重要な情報については、「スプライン面に関するコメント」を参照してください。グリッド サグ面を使用するには、最初に面タイプをグリッド サグに変更します。そして、[面のプロパティ] (Surface Properties) ダイアログの [インポート] (Import) セクションに移動し、DAT ファイル名を選択します。データがメモリにロードされますが、レンズ データ エディタには表示されません。データを表示しないのは、点の数が潜在的に大量にあるためです。グリッド ファイルがロードされると、面データ レポートを使用して値がチェックされます。その後データは、レンズ ファイルで保存され、元の DAT ファイルが無視されます。DAT ファイルを変更するには、[面のプロパティ] (Surface Properties) ダイアログの [インポート] (Import) 機能を使用してファイルをリロードする必要があります。

グリッド サイズは、使用可能なメモリによってのみ制限されます。グリッドの点ごとに、4 個の 8 バイト倍精度値と 1 個の 1 バイト値を格納するために合計 33 バイトのメモリが必要です。255 × 255 のグリッド ファイルには、およそ 2 メガバイトのメモリが必要です。多くの点を含むグリッド サグ面を使用した面は、編集とファイルからの読み込みおよび書き出しが遅くなる場合があります。編集の速度を上げる 1 つの方法は、OpticStudio 内の「ディスク マルチ ステップ」を元に戻す機能をオフにすることです。「[OpticStudio 環境設定] (OpticStudio Preferences)」([設定] (Setup)タブ) の「[エディタ] (Editors)」を参照してください。

バイキュービック補間アルゴリズムは第三次までは滑らかで、グリッド点において正確な結果が得られます。ある程度滑らかな面の形状を得るために大きなグリッド ファイルが必要になることは一般的にはありません。しかし、面のすべての低次スプライン モデルのように、グリッド サグ面を高次非球面に近付けてモデル化することはできません。これは、妥当な数の区分的な第三次多項式があっても、高次形状を正確に生成することはできないためです。グリッド サグ面は、高次の起伏のない任意の低次形状をモデル化するためのものです。

グリッド サグ面は、グリッドの境界の外部に定義されません。グリッド領域の外部で追跡される光線は、光線ミス エラーとして処理されます。グリッドの有効データ部分を光線により照射される最大領域よりもわずかに大きくすることは得策です。特に、グリッドをビーム プリントと全く同じサイズに定義してはなりません。グリッドのエッジの辺りにある光線は、意図されるとおりには追跡されません。

高速ミラーなど急傾斜の曲線的な光学系をモデル化するグリッド サグ面の場合、グリッド データに面に関するサグの全定義を埋め込むよりも、基本半径とコーニックを使用して親形状を定義した後にグリッド サグ データを使用して基本形状からの逸脱を定義する方が良いです。これは、OpticStudio では基本半径とコーニックを使用して光線と面との交差点に対する良好な「最初の推測」を求め、つづいて追加のグリッド サグ データを使用して正確な解に達するまで反復計算するからです。基本の球面が平坦な場合、OpticStudio では急勾配の入射光線と急勾配の曲線的なグリッド サグ面との正しい交差点を見つけることが困難であり、その処理速度も遅くなります。

C 言語プログラムの一例である GRIDSAMP.C がフォルダ <objects>\Grid Files 内にあります (「[フォルダ] (Folders)」を参照)。このサンプル プログラムは、グリッド DAT ファイルを作成する正しい方法を示します。使用される例は球面です。GRIDSAMP プログラムは、面のサグ式のみが解析的にわかっている場合の微分値を計算するための有限差分の使用方法も示します。

グリッド データの最適化と公差解析は行えません。

グリッド サグ面のパラメータ定義

パラメータ番号 定義
0 補間方法。バイキュービック スプライン補間の場合は 0、線形補間の場合は 1 を使用します。「バイキュービック スプライン補間と線形補間」を参照してください。
1 ~ 8 α1 ~α8
9 ゼルニケの X ディセンタ (レンズ ユニット)
10 ゼルニケの Y ディセンタ (レンズ ユニット)
13 項数 (最大 231 個)
14 正規化半径。この値によって座標が正規化されます。
15 ~ 245 ゼルニケ多項式の係数 1 ~ 231 にそれぞれ対応 (レンズ ユニット)。

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