[FFT PSF] (FFT PSF)





高速フーリエ変換 (FFT) 手法を使用して、回折の点像分布関数 (PSF) を計算します。



[瞳サンプリング] (Pupil Sampling) 瞳のサンプリングに使用する光線グリッドのサイズ。32 × 32、64 × 64 などのサンプリングが可能です。サンプリング値が高いほど正確なデータが得られますが、計算時間が長くなります。

[表示] (Display) グラフィック表示の生成時に、計算したデータのどの部分を描画するかを表示サイズで示します。表示グリッドには、32 x 32 からサンプリング グリッド サイズの 2 倍までの範囲で任意のサイズを指定できます。小さい表示サイズでは表示されるデータは少なくなりますが、倍率が高くなるので見やすくなります。このコントロールは、テキスト表示には影響しません。

[回転] (Rotation) 表示する面プロットにどのような回転を適用するかを指定します。0、90、180、または 270°を選択できます。

[波長] (Wavelength) 計算に使用する波長の番号です。

[視野] (Field) 計算の対象となる視野の番号です。

[タイプ] (Type) 線形 (強度)、対数 (強度)、位相、実部 (符号付き振幅)、または虚部 (符号付き振幅) を選択します。

[表示方法] (Show As) 表示オプションとして、面のプロット、輪郭マップ、グレー スケール、または疑似カラー マップを選択します。

[偏光を使用] (Use Polarization) チェックすると、偏光が考慮されるようになります。偏光の状態を定義する方法と解析機能での偏光の使用方法については「[偏光] (Polarization) (システム エクスプローラ)」を参照してください。

[像のデルタ] (Image Delta) 像空間での点どうしの間隔 (マイクロメートル)。0 を指定するとデフォルトの間隔が使用されます。負数を指定すると、像のデルタは使用可能な最大値に設定され、最大のサンプリング グリッドが使用されます。詳細については、「説明」を参照してください。

[正規化] (Normalize) チェックすると、ピーク強度が 1 で正規化されます。チェックをはずすと、収差のない PSF (ストレール比) のピーク値でピーク強度が正規化されます。

[面] (Surface) PSF を評価する面を選択します。これは、中間像を評価するときに効果的です。「中間面における結果の評価」を参照してください。

説明

PSF の計算で使用する FFT 手法はきわめて高速ですが、いくつかの仮定を適用しており、それがどのような条件下でも成り立つとは限りません。一般的なホイヘンス手法は FFT 手法よりも低速ですが、仮定は少なくてすみます。この手法については、「[ホイヘンス PSF] (Huygens PSF)」を参照してください。

FFT PSF の計算で使用する仮定

FFT PSF では、視野に点光源が 1 つだけある光学系で形成される回折像の強度を計算します。この強度は、基準波長の入射主光線の位置を中心として、この光線方向に直交する仮想平面上で計算します。多色計算では主波長を基準波長とし、単色計算では実際に使用している波長を基準波長とします。この仮想平面は像面ではなく、主光線に垂直なので、主光線の入射角が 0 ではない場合に、FFT PSF では実際よりも良好な値 (実際よりも小さい PSF) が得られます。この状況は、像面がティルトした光学系、広角光学系、射出瞳に収差がある光学系、テレセントリック条件からかけ離れた光学系などで多く発生します。

FFT 手法で適用される別の仮定として、像面が光学ビームの遠視野に位置するというものがあります。この仮定は、すべての光線の幾何光学的な焦点に像面が比較的近い場合にのみ正確な PSF を計算できるということです。言い換えれば、光線の横収差が大きすぎないことが条件となります。確実な限度値はありませんが、横収差が数百波長を超えると正確な計算にならない可能性が高くなります。波面収差が非常に少ない光学系でも、光線に大きな横収差が発生することがあります。たとえば、一定の方向にのみ光線が合焦するシリンダ レンズがこのような光学系に相当します。この場合、合焦しない方向の横収差はビーム直径とほぼ同じ量になります。このような場合も、ホイヘンス PSF 手法を使用すれば正確な結果を得ることができます。

ほとんどのレンズでは、比較的重要度が低い仮定として、スカラー解析理論が適用できるということも適用されます。光線のベクトル的特性は考慮されません。この点は、約 F/1.5 (空気中) 以上のきわめて高速な光学系で重要になります。F ナンバーがきわめて高速になると、スカラー理論に起因して実際よりも優れた結果 (実際よりも小さい PSF) が得られます。

主光線がほぼ垂直 (20°未満) で、射出瞳での収差が無視できる程度であり、光線の横収差が比較的少ない光学系であれば、FFT PSF は正確であり、一般的にホイヘンス PSF 手法より高速です。

どちらが正確であるか判断できない場合は、両方の PSF 手法を実行して比較します。精度が低下する条件であることを認識できるようにするには、このような仮定と計算手法を確実に理解することが不可欠です。

FFT 手法とサンプリングの問題

FFT PSF アルゴリズムでは、光学系の射出瞳で波面が持つ複素振幅のフーリエ変換に回折の PSF が関連しているという事実を利用します。光線のグリッドで射出瞳での振幅と位相を計算し、FFT を実行して、回折像の強度を計算します。

瞳のサンプリング グリッド サイズと回折像のサンプリング周期はトレードオフの関係にあります。たとえば、回折像のサンプリング周期を短くするには、瞳のサンプリング周期を長くする必要があります。これは、過剰な光が瞳に入射するように、瞳のサンプリング グリッドを「拡大」することで実現できます。この措置により、瞳に存在する点は実際には少なくなります。

サンプリング グリッド サイズを大きくすると、瞳に存在する点の数を多くすると同時に回折像を緻密にサンプリングできるように、OpticStudio によって瞳のグリッドがスケーリングされます。グリッド サイズを 2 倍にすると、瞳のサンプリング周期 (瞳での 2 点間の距離) と像面のサンプリング周期が各次元で 2 の平方根で除算した値になり、回折像グリッドの幅が 2 の平方根を乗算した値になります (各次元の点の数が 2 倍になっているため)。すべての比率は近似であり、グリッドが大きくなるほど正確な値になります。

拡大は 32 x 32 のグリッド サイズを基準とします。32 x 32 点のグリッドが瞳に置かれ、瞳に位置する各点が実際に追跡されます。グリッド サイズについては、回折像空間の 2 点間のデフォルト距離が以下の式で求められます。

F は実効 F ナンバー (像空間での F ナンバーとは異なります)、λは定義されている最短波長、n はグリッド上の点の数です。係数 -2 は、瞳の中心がグリッドの中心と一致しておらず (n は偶数であるため)、n/2 + 1 だけオフセットしていることによるものです。分母の 2n は、後述のゼロ詰めによるものです。

32 x 32 より大きいグリッドでは、サンプリング密度が 2 倍になるごとに、瞳空間のグリッドはデフォルトで以下の値を乗算した値に拡大されます。◆前(後)の分節に結合◆この場合、像空間でのサンプリングを表す一般式は次のようになります。

像データ グリッドの合計幅は次のようになります。

瞳グリッドを拡大すると瞳の中のサンプリング点の数は減るため、実効的なグリッド サイズ (追跡する光線を実際に表すグリッドのサイズ) はサンプリング グリッドより小さくなります。サンプリングが増加すると、実効的なグリッド サイズも増加しますが、サンプリングの増加に見合った増え方ではありません。さまざまなサンプリング密度値に対するおよその実効的なグリッド サイズを以下の表に示します。

PSF の計算で使用するデフォルトの実効的なグリッド サイズ

サンプリング グリッド サイズ 実効瞳サンプリングの概算値
32 x 32 32 x 32
64 x 64 45 x 45
128 x 128 64 x 64
256 x 256 90 x 90
512 x 512 128 x 128
1024 x 1024 181 x 181
2048 x 2048 256 x 256
4096 x 4096 362 x 362
8192 x 8192 512 x 512

サンプリングは波長の関数でもあります。前述の説明は、計算で使用する最短の波長でのみ有効です。多色計算の場合、実効的なグリッドが小さくなるように、長い波長がスケーリングされます。使用する倍率は波長の比率になります。これは、広い波長帯を持つ光学系でサンプリング グリッドを選択する場合に考慮する必要があります。多色計算では、短い波長に対するデータの方が、長い波長に対するデータよりも正確になります。FFT PSF の位相、実数、および虚数の各データ タイプでは、多色平均に物理的な意味がなく、すべての波長を選択した場合は、OpticStudio により主波長が選択されます。

別のサンプリング距離が必要な場合は、像のデルタ Δ を手動で選択します。像のデルタが 0 の場合、前述のデフォルトの間隔とサンプリング グリッドが使用されます。像のデルタが 0 より大きい場合、必要な像のデルタ サイズを得るために瞳のサンプリングがスケーリングされます。実際の拡大量は、グリッド サイズ、像のデルタ、定義されている波長、各視野および波長での F ナンバー、射出瞳のアスペクト比で決まります。設定した像のデルタが小さすぎると、瞳をサンプリングするうえで十分な点が残りません。一方、像のデルタが大きすぎると、射出瞳の全幅に対して瞳グリッド全体のサイズが不足します。どちらの場合も OpticStudio で監視され、発生した場合はエラー メッセージが発行されます。像のデルタが 0 より小さい場合、瞳はまったく拡大されません。これにより、像座標での PSF の範囲が最大となり、瞳の中ですべての光線を扱うことができるグリッドが使用されますが、サンプリングでの空間分解能は向上しません。サンプリングが増えても像のデルタはほぼ一定であるからです。

サンプリングを指定すると、「ゼロ詰め」と呼ばれるプロセスにより、配列のサイズが 2 倍になります。つまり、32 x 32 のサンプリングに対して、OpticStudio では 64 x 64 グリッドの中心部分が使用されます。したがって、64 x 64 サイズのグリッド上に回折 PSF が分布します。像空間でのサンプリングは、必ず瞳サンプリングの 2 倍になります。ゼロ詰めは、エイリアシングの低減を目的としています。

FFT アルゴリズムの特性上、その計算は瞳空間座標で実行されます。このため、像面を回転しても、計算される PSF の方向には何の影響もありません。PSF の X 方向と Y 方向は、入射瞳の光線の X 方向と Y 方向と一致していますが、これらは必ずしも像の空間的な X 方向と Y 方向とは一致していません。像空間座標で PSF を計算する方法については、「[ホイヘンス PSF] (Huygens PSF)」を参照してください。

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